パレスチナ経済は長い間その潜在性を下回っています。政治情勢が改善し和平と安定が期待できれば、経済は急速に前進し過去30年間の失地を回復することが見込まれます。その時こそ全セクターでの成長が期待できます。これはただ単に期待を寄せているわけではなく1990年代の比較的に穏やかな期間の経済活動を振り返ってみて分かるように現実可能なことなのです。
この期間、全セクターにおける経済活動は治安情勢の一部改善に伴い、GDP成長率が10%と急速な増加を見せました。国内経済の成長がもたらしている投資機会に加えて、パレスチナは自由貿易協定を締結している国の投資家にパレスチナ主要市場への参加を認めています。
- 建築セクター
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復興プログラムは必然的に過去数年に損傷をうけたインフラ構築と公的機関作りから始めます。空港の復興や海港の建設、またガザで破壊された住宅地の復興にむけて大きな機会に恵まれています。
- ホテル、レストラン、娯楽施設の建設は観光セクターを復活させるのに必要です。観光セクターは過去7年間停滞し、2007年だけ増加をみせました。更に、住宅建設は人口の自然増加、難民キャンプの修復、パレスチナ難民の流入に合わせて増えることになります。重要な地域の1つはその数から言っても数千の住宅を建設するチャンスがあるエルサレム市でしょう。
- 2007年末、パルテル・グループ(パレスチナ電気通信社)とバイティ不動産会社がラマラとナブルスの間の4,000ドナムの土地に約$9億を投資して2つの新しい町を作る計画を発表しました。1,000ドナムに作られる小さいほうの町には4,000の住宅が建設されパレスチナ人25,000人の家となります。
- 農業セクター
経済回復の初期段階では農業セクターに相当な成長がもたらされることになるでしょう。その理由は2つあります。1つは予想される所得増加と人口増加に対応するために食料生産の増加が期待されるからです。特定の食料は設備余力が使われれば供給が自動的に増加します。しかし供給はその他の食料では十分といえません。小麦、種油、砂糖への投資はかなりの還元が期待できます。
- もう1つの理由は農業セクターの成長はかなり利益をもたらすものとなります。失った換金作物のシェアがイスラエルへの輸出を含む海外市場で取り戻せるからです。主な換金作物はトマト、きゅうり、茄子、豆、オリーブ油があります。これら作物はイスラエルに輸出されるかイスラエルを通して輸出されます。つまりこれらの作物には競争力があり輸出施設に投資があれば近隣市場でシェアを取り戻せることが可能だということを示しています。
- 製造セクター
- 建築、農業セクターの拡大成功は製造セクターの拡大が不可欠です。インフラ建設には特にセメント、コンクリ、アスファルト、砕石、アルミニウム、鉄、鋼棒といった建築資材の需要が増えます。同時に農業の拡大は余剰農産物の販売路と加工食品の供給業者としての農産業拡大が平行に必要とされます。パレスチナ自治政府は増える需要に対応するため国内生産を助長しています。
- 製造業セクターは全体の経済成長率と似たような伸びをみせるでしょう。農産業と建築材料産業に加え石材、繊維類、革製品、医薬品などへの投資チャンスがあります。
- 観光セクター
治安情勢に改善が見られれば、観光セクターは重要な成長促進セクターとなる可能性があります。1990年代初期、世界銀行は政治情勢が安定すればパレスチナの観光産業は年間50万人から100万人(宗教関心と娯楽を合わせて)の旅行者を呼ぶことになり$2.5億ー3億(注1)の利益をもたらすだろうと推測しました。
- しかしこの可能性を現実のものとするにあたり公共セクターと民間セクターの効果的なパートナーシップが必要とされます。公共セクターは近隣諸国と地域的枠組みを構築し、予想される外国人観光客の増加を促進させる。民間セクターはホテル、レストラン、娯楽施設への投資資金を用意する。パンフレットの出版や見本市、催し物、展示会の企画開催なども必要となります。
- 情報通信技術セクター
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情報通信技術はパレスチナで最も急成長を遂げているセクターの1つです。これも私設通信サービスと革新的なソフトウェア業界のおかげです。情報通信技術セクターの年間平均伸び率は25-30%(2000年以前)と目覚しい成長を遂げました。高い教育水準を誇るパレスチナの人材網は近代技術に依存する知識集約型産業を探求する潜在性を示しています。多くの人材がソフトウェア開発、ハードウェア産業やITコンサルタントなどといった情報通信技術サービスで活躍を遂げるでしょう。
- 特定の分野別でみていくと、パレスチナ人はアラビア語とアラブ・イスラム社会の文化背景に適応した翻訳サービス、ソフトウェア開発、インターネット・コンテンツで才能を発揮するでしょう。
- 通信セクターの自由化は投資への新たなチャンスを示しています。パルテル・グループ(パレスチナ電気通信社)に与えられていた固定ライン網の独占権は2006年11月15日をもって終了しました。2006年9月にはクウェートのワタニヤ電気通信社が権利取得のため2.51億ヨルダン・ディナール($3.55億)で入札に成功しました。パレスチナ投資基金が30%所有権を持つワタニヤ・パレスチナは、携帯電話の事実上の世界標準であるグローバル・システム・フォー・モバイル・コミュニケーションズの開設・運営を手がけます。
- 情報通信技術セクターの規制枠組みの変化は投資環境にもよい影響をもたらします。監督機関の設立と電子商取引・電子署名を規制するための法が現在準備中です。
- 教育・保健セクター
教育セクターは投資をするにあたり最も大きな潜在性を秘めているセクターの1つです。上記に記載されているように、パレスチナ人は教育を重視しています。私立学校はヨルダン川西岸やガザで栄えています。更に2007年12月にパリで開催されたパレスチナ支援国会議で発表されたパレスチナ改革・開発計画には教育への前向きな取り組みについて触れてあり、教育こそがパレスチナ経済を作り上げる大きな柱だと強調してあります。またパレスチナの教育の質を向上するためのプロジェクトについても触れています。
注1:世界銀行:Developing the occupied territories(占領地の開発): an investment in peace:ワシントンDC,1993年9月Vol.3 para.156,p.44
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